2016年7月30日土曜日

フクロウの声が聞こえる~小沢健二「魔法的ツアー」を終えて~

6月23日に観に行った小沢健二「魔法的ツアー」の雑記。



オザケンにとって、2年ぶりとなるツアー。


今折に触れて思い出すのは、新しい曲の演奏シーン。

「ドアノック」だとか「ラブリー」だとかオザケン黄金期の聴き込み・聴き慣れた曲の演奏でなく。


魔法的電子回路のきらきらとした光景とともに思い出す。


魔法的電子回路。眩しいくらいの強い光。



「魔法的ツアー」は、新曲とその歌詞にクローズアップした内容だった。


公式ページのオザケンによるツアーに向けてのメッセージは、
新しい曲をたくさんやります、ということだった。

その宣言通り、多くの新曲が演奏された。

アンコールには、新曲のみのダイジェスト演奏もなされた。


真っ暗な会場で、魔法的電子回路が光る中、ファンキーな演奏が始まる。
1stアルバムのリードトラック「昨日と今日」での幕開けだ。

以降立て続けに新曲が披露される。

曲調は「Do It Again」や「Peg」のようなものがあったりと、フェイゲンやスティーリー・ダン等、80’sニューヨークを思わせるものが多かった。
NY在住のオザケンだけあって、本場の音を体現しているかのようだった。


歌詞は殆どがバックスクリーンに映し出されていた。
新曲の歌詞を、新たなメッセージを頭に刻み込んでほしい、ということだろうか。

映し出された新曲の歌詞は、かつての曲の平易でダイレクトに伝わる歌詞とはうって変って、よりアカデミックな言葉で紡がれ、レトリックが幾重にも含蓄されたものだった。

正直、一回見ただけでは理解し難く、哲学書を読んでいる気分に近いものを感じた。
(とある新曲には「文学的」 という直球過ぎる言葉があって、これに関してはどうしたものかと思ってしまった。)

この日も歌われたかつての人気ナンバー「ドアノック」「ラブリー」のように、恋愛によって人生を謳歌する明快なラブ・ソングは新曲にはなかった。

ただ、その本質は変わらず、「愛」だったり、「生きることへの歓び」だったりということは何となく伝わってきた。


とりわけ印象的だったのは「フクロウの声が聞こえる」という新曲だ。

2曲目に演奏され、アンコールとして一番最後にもフルで演奏された。
いわば、エピローグ・プロローグの役目の曲といったとこだろうか。

森の中でお父さんとその子供がでてくるメルヘンチックなシチュエーションの歌詞だった。

内容は
世界は広いし、生きていればいろんな事が起こる、ときには辛く悲しいことも。
だけど「愛」や「歓び」といった素晴らしいこともあるんだよ。

・・・というようなことをうたっているように感じられた。

このように教訓を含んだ童話を読むような、父親目線の優しさが多くの新曲から伝わった。
かつての曲には見受けられない歌詞だった。

こうした歌詞に見られる変化は、世界の様々な国を旅し、結婚して父親になったオザケン自身の変化ゆえのものなのだろう。



 「都市」と「歌詞」~松本隆から小沢健二へ~


歌詞と言えばもうひとつ触れておきたいことがある。

松本隆とオザケンの関係についてだ。


日本のロック/ポップスを中心とした魔法的の会場SEは、
ceroや片思いといった最近の曲から昭和歌謡まで新旧問わずの選曲だった。

中には、大瀧詠一「君は天然色」や松田聖子「SWEET MEMORIES」といった松本隆作詞作品も流れた。

かの松本隆は今回のツアーの大阪講演を観に行ったようだ。
オザケンとは20年ぶりの再会だったという。



両者の歌詞に共通するのは
「都市」やそこに生きる人を、文学的で洗練された言葉で描いた点だ。


この魔法的ツアーと並行して2都市で美術館ツアーが行われた。
そのタイトルは「言葉は都市を変えてゆく」というものだった。

このタイトルが示す通り、オザケンの音楽は「都市」「歌詞」が重要なキーワードである。
ソロとして活動する以前のリッパーズ・ギター時代から、都市に生きる人のライフスタイルを描き、都会的音楽のムーブメントである「渋谷系」の象徴となった。


松本隆はというとはっぴいえんど時代から風街という都市を描き、70年代80年代のいわゆる「シティポップ」の中心的存在となった。

フリッパーズ・ギターの片割れ小山田圭吾が細野晴臣と強い繋がりがあるならば、
オザケンは松本隆といったところだろう。

テクノやミニマムミュージックというジャンルにおいて世界的に有名となった細野と小山田。

歌謡曲において「街」や「都市」を根底とした、文学的な歌詞でヒット曲を生みだした松本と小沢。


ちなみに某音楽誌が発表した邦楽アルバムベスト100において、
80年代と90年代の第1位はそれぞれ大滝詠一「A LONG VACATION」と小沢健二「LIFE」であった。

はっぴいえんどからフリッパーズ・ギターへ
各々のソロへ

日本のロック/ポップスにおいて受け継がれていくバトンが垣間見えた。



魔法的とは、おとぎの世界にいるような非日常的シチュエーション


「魔法的ツアー」の演出は語弊があるかもしれないが、「お遊戯」そのものだった。
「お遊戯」といっても決して子どもじみたものではない。

おとぎ話のお遊戯の世界にいるような、非日常的な演出だった。



まず、演奏者の衣装。
オザケンは頬に白い波のようなペイントを施し、カラフルな草花が描かれた髪飾りのようなものを左おでこにつけていた。

オザケン以外の演奏者はカラフルな頬のペイントに加え、草花があしらわれた派手な冠のようなものを被っていた。

衣装自体は白を基調とした変哲のないものだったが、この顔周りの演出はなんだかお遊戯っぽかった。



そして、歌いながら皆で踊ろう、という演出。

今回に限らずオザケンのライブは皆でうたって踊って楽しむことが醍醐味のようなものだが、
今回新しい曲の演奏時にがっつりと聴衆の参加を煽っていた。

新しい曲の歌詞や振り付けをオザケン自身がレクチャーする場面があったのだ。

何公演も観に行く人もいて、そういう熱心なファンはレクチャーのなかった新曲の振付も歌詞までもマスターしていた。


たくさんの大人がお遊戯をするのは不思議な光景だった。

(個人的には聴き慣れた曲ならともかく、初めて聴く曲を歌って踊って楽しむことは気恥ずかしかった。
気後れしながら、このツアーを見に行っているであろうタモリも踊ったのか、ということが気になった。
入園前に幼稚園児の「きらきら星」かなんかのお遊戯を見て、オレはあんなことするくらいなら幼稚園には行かないと決意したというタモリ。いくら オザケンが好きとはいえ、踊らないよな・・・)



最後にこのライブの演出で、一番印象に残った閉幕時のシーン。

それはおとぎ話のお遊戯の世界にいるような非日常的な空間から、フッと現実に戻った瞬間だった。


アンコールも演奏し終え、退場しようとするオザケンが、
やだー、とただをこねる観客に向かって、
「大丈夫、大丈夫だから・・・!」と
もう子どもじゃないからね、というようにあやす口調で言葉を投げかける。


セリフじみた、だけど最高に素敵な魔法の言葉を皮切りに、静かに暗転、閉幕した。

「日常に帰ろう」

ほんとうに静かに、フッと魔法が解けたようだった。


思わずゾクッとする粋な引き際だった。



 「フクロウの声が聞こえる」


朝目覚めたとき、電車を待っているとき、この曲がふと脳裏によぎることが幾度もある。

魔法的電子回路の光の瞬きとともに。


新しい曲で唯一2回演奏されたから、とりわけ焼き付いてしまった。とてもやさしい歌。


「帰り道に体に残っているのは、新しい曲たちだと思います。」

という、ツアーに向けてのオザケンの言葉通り、新しい曲が体に残った。



こんなふうになんでもない日常の中に、非日常的な瞬間がよぎるとき、

ああ自分は今、魔法にかかっているんだな。
ささやかな魔法に。

なんて思ったりする。


魔法的ってこういうことなんだろうな。



2016年7月9日土曜日

恋は桃色~細野晴臣 七夕ライブ~




細野さんの七夕ライブに行きました。


この日のライブは女性限定という、細野さん初の試みだそうです。




入場の様子。見事に女性だらけ。


会場の青山CAYでは永井博さんの個展も開催されていたようで、いたるところにイラストが飾られていました。


細野さんが参加したロンバケも。



入場と引き換えに短冊を渡されました。
細野さんに叶えてほしいことを書いてください、という七夕ならではの企画とのことです。


本日の細野さんは、珍しく上下スーツできめていました。
近年の細野さんの衣装はボーダーもしくは白のTシャツに黒いチョッキというラフな格好がほとんど。女性限定のライブなので、ダンディーな衣装にしたのでしょうか。



ステージに立つやいなや、
「すごい景色だね」
と、女性で埋め尽くされた会場に感嘆。



高田漣さんをサポートに弾き語りのライブが始まりました。


この日はだいたい10曲程披露。
古い曲のカバーとオリジナルが半々くらいのセットリストでした。

漣さんは曲によってはマンドリンに持ち替えていました。



一曲目は 「Angel on my Shoulder 」。1960年前後に活躍した女性フォークシンガーShelby Flintのカバーです。





二曲目もカバーで、先日の港街ツアーでも披露した白雪姫「ハイホー」。ツアーバンドでのアレンジはジャジーな感じでしたが、本日は弾き語りで。

曲の最後、ハーパース・ビザール等もカバーした「ハッピー・トーク」のワンフレーズをさり気なく取り入れていて、ニヤリとさせられました。




港街ツアーの演目からは「北京ダック」も。弾き語りだと曲の印象がガラッと変わり新鮮でした。
細野さん曰く、弾き語りで披露したのは初めて、とのこと。
これは貴重…!




そして弾き語りといえば、あのアルバムからも。



「HOSONO HOUSE」から一曲演奏してくれませんか、
という短冊の願い事を叶える細野さん。



こんなコードよく思いついたもんだよ…と、おもむろに弾き始めたその曲は「恋は桃色」。
途中の歌詞を忘れるというハプニングもありましたが、この曲を演奏してくれて大変嬉しかったです。




この曲の歌詞の
“おまえの中で雨が降れば 僕は傘を閉じて濡れていけるかな”
って部分最高じゃないですか…?

傘を差し出すのではなく、同じ立場に身を置くことで相手を理解しようとする心遣い。
女性の共感心理を巧みに捉えた歌詞ですね。


この曲を女性限定ライブで演奏するなんて、細野さんどんだけ粋なんだ…!!!



最近ライブで演奏しているというカバー曲「El Negro Zumbon (Anna)」も良かったです。
調べてみると、1951年公開のイタリア映画の主題歌ということ。

細野さんの曲で、ヨーロピアンの曲を聴くは初めてだったので、これまた新鮮でした。
気分はもはや地中海。


細野さんの曲って、異国情緒あふれるものが多いと思うんです。
米国に始まり、香港だったり、カリブだったり…。
しかも異国なのになぜか郷愁を誘うという不思議。

とある街を抜け出し、無風状態で船に乗り、いろんな時代や国を行き来してる細野さん。

旅はいまだ続いてるんだな…とつくづく思いました。


この曲はレコーディングはまだやっていないとのことなので、音源化が楽しみです。





本日の細野さんはとにかく沢山しゃべっていました。自分が今まで観た細野さんのライブでもダントツのMC時間でした。


いつも以上のお茶目さと肩の力が抜けたような緩さでトークをする細野さん。


子供のころの話から、女性遍歴、病気遍歴までも。


印象に残ったのはお父さんの話。

米軍基地に勤めていたお父さんはアメリカン・コメディが大好きだったそうで。
細野さんのおちゃらけ好きはお父さん譲りなんですね。


本日も、みゆき族の歩き方の真似をします、とコミカルな姿を披露。会場は爆笑で包まれました。


女性に囲まれた異空間を楽しんでるようでした。



終演後には、2日後の7月9日が誕生日の細野さんにケーキが振る舞われるというサプライズが。
たくさんの女性に囲まれて祝われる細野さん。



七夕の願いが叶ったお客さんにとっても、細野さんにとっても、特別な一夜になったのではないでしょうか。




2016年7月7日



2016年7月7日木曜日

Hey,Schoolgirl~Tom & Jerryを知ってるかい?~

二人組のミュージシャンっていいよね。

息の合ったハーモニーと演奏。
デュオという最小単位の編成だからこそ成せる音楽。

ロックやポップスの世界には数多のデュオが存在する。
いわゆるフォーク・デュオ、アコースティック・デュオ、って呼ばれる二人組は特に多かったりする。


では、トム&ジェリーを知ってるかい?
あの猫とネズミのアニメーションから名を拝借したデュオを。




のちに、多くのヒット曲で世界的に名の知られる存在となるこの二人組。



そう、若かりし頃のサイモン&ガーファンクル。


「ヘイ、スクールガール」は彼らのレコードデビュー曲。


ファッツ・ドミノやリトル・リチャードを彷彿させるR&B。


プロのウッドベース奏者の父と小学校教諭の母を持つポール・サイモン。

セールスマンと主婦であるが、歌うことが大好きな両親を持つアーサー・ "アート" ・ガーファンクル。


音楽に慣れ親しんできた2人は、小学校高学年のとき出会い、意気投合する。

自然な流れでデュオを結成し、ハイスクールのダンスパーティーで演奏し喝采を浴びる。14歳の時には共作した曲を初めて著作権登録した。


16歳のとき、エヴァリー・ブラザーズ「バイ・バイ・ラブ」に衝撃を受け、スタジオデモテープを作る。


のちにS&Gでカバーすることとなる。


このスタジオデモのセッションで、2人のハーモニーをたまたま聴いていたレコード・プロデューサーの目にとまり、ビッグ・レコードからデビューが決まる。



「ベイビー・トーク」はThe Laurelsのカバー。この手のドゥーワップはアーティが特に好んだようだ。
後にサーフィン/ホット・ロッドデュオのジャン&ディーンもカバーする。


ジャン&ディーンVerはナイアガラファンにはおなじみ。


「トゥルー・オア・フォールズ」は、ポールがトゥルー・テイラー名義でリリースした曲だ。作曲は父親のサイモン・ルイス。彼はロックンロールに反感を持っていたのだが、曲調はエルヴィスそのもの。


次なるエヴァリー・ブラザーズでなく、あくまで次なるエルヴィスになりたかったポール。

野心家のポールは、アートの断りなくソロ活動を始める。それに裏切られたと感じたアートは深く傷つく。事あるごとに徐々に広がる2人の亀裂がここで初めて生じた。

ポールのソロ活動はこれにとどまらず、ジェリー・ランディス名義での楽曲提供や、ティコ&ザ・トライアンフス名義でシングルを発表するなどした。

アートもアーティ・ガー名義でソロデビュー。


しかし、いずれの活動も、「ヘイ、スクールガール」以上の功績を残すことはなかった。



トム&ジェリー

当時流行ったロックンロールやドゥーワップの曲調に、いたいけな歌詞とヴォーカル。10代ならではの溌剌とした持ち味が発揮されている。
S&Gのようなオリジナリティがあるとは言えないが、2人のハーモニーのきめ細かな美しさにその片鱗が覗く。