2017年3月18日土曜日

ドゥービー・ブラザーズの要、パトリック・シモンズ

ドゥービー・ブラザーズで好きなメンバーは俄然パトリック・シモンズ。

パトリック・シモンズ(Patrick Simmons) ことパットはドゥービーズのデビュー以来、唯一のオリジナル・メンバーである。

彼こそがドゥービーズの要なのだ!!

Taken' it to the streetsのこのドアップはパット・シモンズ


しかし、ドゥービー・ブラザーズと言えば、トム・ジョンストンもしくはマイケル・マクドナルドが好きだという人が多いだろう。

70年代前半ドゥービーズの豪快なロックが好きな人はトム・ジョンストンを、
70年代後半ドゥービーズのAORなサウンドが好きな人はマイケル・マクドナルドを選ぶように、
時期によって2人の音楽性が顕著に反映されているからだ。


このように、ドゥービーズといえばトミーとマイクが目立ちがちである。
またこの2人はボーカルも特徴的だ。

トミーは荒々しいロックサウンドに合う、ブルージーでワイルドなボーカル。

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一方、マイクはスモーキーで深みのあるソウルフルなボーカル。

2人ともインパクトのある濃ゆい顔をしているが、その歌声も濃厚で印象的である。


パットはといえば、クールでさわやかな声の持ち主だ。2人ほどの個性はないが、クセが強くないと言う意味では耳馴染みが良く、聴き易いボーカルだと言える。

顔も端正で容姿もスマートなナイス・ガイだ。

イケメンで声も良いパットだが、強烈な2人の影になりがちなのである。


…って結局顔じゃん!、と言われそうなので、具体的にパットの楽曲を聴いてみよう。

以下、特に好きなパットの10曲です。(リリース順)



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①South City Midnight Lady(『Captain and Me』収録)


フォークやカントリー・ミュージックからひときわ影響を受けたパットならではの曲。
歌詞はパットの故郷であるカリフォルニア州南部のサン・ノゼ(=サウス・シティー)の女性たちを讃えたもの。

カントリー・テイストを際立たせるペダル・スティール・ギターを演奏するのは、
当時スティーリー・ダンに在籍していたジェフ・“スカンク”バクスター。

ミドル・テンポの爽やかな曲調で、
カントリーを基調としているが、いなたさはなく、メロウで都会的。
タイトルの表す通り、まさにシティーでミッドナイトでレディーな曲。


トミーのブルースに根ざした荒々しいロックサウンドと好対照を成す。


②Black Wlter(『ドゥービー天国』収録)


パットと言えばこの曲を挙げる人が多いのではないだろうか。
言わずと知れたドゥービーズ初のヒットナンバー。

歌詞はミシシッピへの憧憬にあふれ、旅情掻き立てられるものだ。

この歌詞の通り、ホンキー・トンク調な曲だけあって、
フィドルが効果的に演奏される。


途中でゴスペル調のコーラスの掛け合いが始まり、雰囲気がガラっと変わる展開もユーモラス。

このコーラスを発案したのはプロデューサーのテッド・テンプルマンだそう。
かつて彼自身が在籍していたハーパース・ビザールで複雑なコーラス・アレンジを担当していたこともあり、ドゥービーズのコーラス・ワークも特色あるものとなっている。

同時期に活躍したウエスト・コーストのバンドでコーラス・ワークが抜きん出ていると言われる所以は、彼の関与が大きいのではないだろうか。


こちらのライブバージョンのジェフ・バクスターによるペダル・スティールも鳥肌モノ。
曲の幽玄さを際立出せる。



③Neal's Fandango(『スタンピート』収録)


スピード感溢れるロック。

ダブル・ドラムとトリプル・ギターが力強く疾走する。
まさに“スタンピート”の如き勢い。

リトル・フィートのメンバーであるビル・ペインの鍵盤が入り、ソロ回しにも拍車が掛かる。


ここでも素晴らしいコーラスが聴ける。
1分45秒辺りからダイナミックなスケープが広がっていくように、サウンドが開ける。
これぞバーバンク・サウンド。


こうしたサウンドもプロデューサーのテッド・テンプルマンの付与するところが大きいのではないだろうか。



メンバーとエンジニアのドン・ランディと共に裏ジャケに映るテッド(下段右から2番目)

因みにニールとはビート詩人のニール・キャサディのことで、同アルバム収録の「I Cheat The Hangman」にも見られる、ストーリー性ある歌詞となっている。
こうした捻りの効いたパットの歌詞は、音楽一筋な歌詞が多いトミーや恋愛ソング中心のマイクとは一線を画する。



こちらのライブの演奏もとてつもなくエキサイティング。
間奏のギター・ソロで暴れまくるジェフ・バクスターが最高。


④Slat Key Soquel Rag(『スタンピート』収録)


パットと言えばアコギのフィンガーピッキング。
ここではお得意のラグ・タイム奏法を。
歌なしだが、ギター・インストとして充分楽しめる曲。

パットはAOR路線に突入後も、「Larry The Logger Two-Step」や「Steamer Lane Breakdown」といったカントリー調インストナンバーを1アルバムにつき1曲取り入れ続けた。



⑤8th Avenue Shuffle(『ドゥービー・ストリート』収録)


舞台はニューヨーク。
かつて歌われた南部への憧憬に対し、本作では都会の喧騒が陽気に歌われる。

トミーの体調不良によるバンドの脱退により、
スティーリー・ダンからジェフ・バクスターとマイケル・マクドナルドの2人が加入するに伴い、
パットの楽曲も音楽的に一層幅広いものになっていった。

本作はメンフィス・ホーンのソウル・フルな演奏や変速リズムが取り入れられ、
サウンドにおける目覚ましい変化が楽しめる。

また、パットとスカンクの異なる個性を持ったギター・プレイの対比も面白い。
ラテン風のギターリフを基調とし、ブリッジ部分にはブルース風の豪快なリードギターが聴ける。


カリフォルニアの片田舎から、大都会ニューヨークへと、
ドゥービーズは都会的なサウンドに移る。


⑥Rio(『ドゥービー・ストリート』収録)


「8th Avenue Shuffle」と同じくラテン調の曲ではあるが、洗練度が大幅に増す。

サンバ風のパーカッションとジャジーなエレピによるイントロにベースが入ってくれば、グルーヴが一気に炸裂。
リオのカーニバルよろしく、解放感に満ち溢れる。

万華鏡のようなコーラス・ワークは楽曲に煌めきを与える。

「ねえ、乗ってかない?」
というワンフレーズだけ登場するマリア・マルダーが何とも粋な演出だ。


⑦Echoes Of Love(『運命の掟』収録)


パットの曲にもマイケル・マクドナルドの個性が色濃く反映されるようになる。

パット作のこの曲も、本来ならギター中心のアレンジといったところだろうが、
イントロも曲全体のアレンジもマイクのシンセが中心である。
キャッチーなシンセのリフがいかにもマイクらしい。

パットによるメロウなメロディーと爽やかなボーカルはマイクのサウンドとも相性抜群だ。

シングルとしても発売された。


⑧Livin' On The Fault Line(『運命の掟』収録)


より複雑化するリズム。
より深遠化するグルーヴ。 

同アルバム収録の 「China Groove」に通じるインプロビゼーション・ナンバー。
ファンキーでジャズ色の強いプログレッシブな楽曲であり、パット、そしてドゥービーズの新境地と言える。

後半にかけて曲が盛り上がっていく様は、静かな気迫を感じさせる。
ビブラフォンが効果的。

こうした曲もトミーやマイクには無いもので、
カントリーやメロウ路線とは別のパットの持ち味が発揮されている

アルバムの表題曲。


⑨Sweet Feelin'(『ミニット・バイ・ミニット』収録)


アコーステック・ギターの音色が優しく響く、最高にメロウな一曲。
ワーナーのレーベルメイトであるニコレット・ラーソンとパットのデュエットが美しい。

呼応するようなコーラス・ワークも甘美。

プロデューサーのテッド・テンプルマンも共作し、パーカッションとしても曲に参加。
彼の叩き出すサウンドは曲のソフトな印象を際立たせる。

まさにSweet Feelin'な曲。



⑩If You Want A Little Love(『メロウ・アーケード』収録)


最後はパットの唯一のソロアルバムから。

1982年にドゥービーズを一旦解散させたパットは翌年ソロ作をリリースする。

トミーからマイクまでお馴染みのメンツも参加。

楽曲はカントリー調のものやポップ・ソウル風ナンバー等、ドゥービーズ・サウンドを彷彿とさせるものに交って、
ハード・ロックやディスコ風といったアレンジやヒューイ・ルイスのカバー等、ドゥービーズ時代のパットらしからぬ楽曲も見られる。

本作「If You Want A Little Love」はディスコAORな楽曲。
咲き乱れるような早口コーラスが何ともユニーク。
タワー・オブ・パワーによるホーンが彩りを添える。

パットの新たな一面が垣間見える楽曲となっている。



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以上パットの魅力を掘り下げてみました。

メンバーチェンジによってバンドの音楽性が大きく変化するに伴い、自身の音楽性に柔軟に磨きをかけていったパット・シモンズ。

つまり、強引に言い方をしますと、パットの歴史=ドゥービーズの歴史でしょうか。

パトリック・シモンズこそドゥービーズの要だ。
と、冒頭で豪語しましたが、それが過言ではないということが伝われば…、と思います。


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