ドゥービー・ブラザーズで好きなメンバーは俄然パトリック・シモンズ。
パトリック・シモンズ(Patrick Simmons) ことパットはドゥービーズのデビュー以来、 唯一のオリジナル・メンバーである。
しかし、ドゥービー・ブラザーズと言えば、トム・ ジョンストンもしくはマイケル・ マクドナルドが好きだという人が多いだろう。
70年代前半ドゥービーズの豪快なロックが好きな人はトム・
70年代後半ドゥービーズのAORなサウンドが好きな人はマイケ ル・マクドナルドを選ぶように、
時期によって2人の音楽性が顕著に反映されているからだ。
このように、 ドゥービーズといえばトミーとマイクが目立ちがちである。
またこの2人はボーカルも特徴的だ。
トミーは荒々しいロックサウンドに合う、 ブルージーでワイルドなボーカル。

一方、マイクはスモーキーで深みのあるソウルフルなボーカル。
2人ともインパクトのある濃ゆい顔をしているが、 その歌声も濃厚で印象的である。
パットはといえば、クールでさわやかな声の持ち主だ。 2人ほどの個性はないが、 クセが強くないと言う意味では耳馴染みが良く、 聴き易いボーカルだと言える。
顔も端正で容姿もスマートなナイス・ガイだ。
イケメンで声も良いパットだが、 強烈な2人の影になりがちなのである。
…って結局顔じゃん!、と言われそうなので、 具体的にパットの楽曲を聴いてみよう。
以下、特に好きなパットの10曲です。(リリース順)
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①South City Midnight Lady(『Captain and Me』収録)
フォークやカントリー・ミュージックからひときわ影響を受けたパットならではの曲。
歌詞はパットの故郷であるカリフォルニア州南部のサン・ノゼ(=サウス・シティー)の女性たちを讃えたもの。
カントリー・テイストを際立たせるペダル・スティール・ギターを演奏するのは、
当時スティーリー・ダンに在籍していたジェフ・“スカンク”バクスター。
ミドル・テンポの爽やかな曲調で、
カントリーを基調としているが、いなたさはなく、 メロウで都会的。
タイトルの表す通り、 まさにシティーでミッドナイトでレディーな曲。
トミーのブルースに根ざした荒々しいロックサウンドと好対照を成す。
②Black Wlter(『ドゥービー天国』収録)
パットと言えばこの曲を挙げる人が多いのではないだろうか。
言わずと知れたドゥービーズ初のヒットナンバー。
歌詞はミシシッピへの憧憬にあふれ、旅情掻き立てられるものだ。
この歌詞の通り、ホンキー・トンク調な曲だけあって、
フィドルが効果的に演奏される。
途中で
このコーラスを発案したのはプロデューサーのテッド・
かつて彼自身が在籍していたハーパース・ ビザールで複雑なコーラス・アレンジを担当していたこともあり、 ドゥービーズのコーラス・ワークも特色あるものとなっている。
同時期に活躍したウエスト・コーストのバンドでコーラス・
こちらのライブバージョンのジェフ・バクスターによるペダル・ スティールも鳥肌モノ。
曲の幽玄さを際立出せる。
③Neal's Fandango(『スタンピート』収録)
スピード感溢れるロック。
ダブル・ドラムとトリプル・ギターが力強く疾走する。
まさに“
リトル・フィートのメンバーであるビル・ペインの鍵盤が入り、
ここでも素晴らしいコーラスが聴ける。
1分45秒辺りからダイナミックなスケープが広がっていくように、 サウンドが開ける。
これぞバーバンク・サウンド。
こうしたサウンドもプロデューサーのテッド・
メンバーとエンジニアのドン・ランディと共に裏ジャケに映るテッド(下段右から2番目)
因みにニールとはビート詩人のニール・キャサディのことで、同アルバム収録の「I Cheat The Hangman」にも見られる、ストーリー性ある歌詞となっている。
こうした捻りの効いたパットの歌詞は、音楽一筋な歌詞が多いトミーや恋愛ソング中心のマイクとは一線を 画する。
こちらのライブの演奏もとてつもなくエキサイティング。
間奏のギター・ソロで暴れまくるジェフ・バクスターが最高。
④Slat Key Soquel Rag(『スタンピート』収録)
パットと言えばアコギのフィンガーピッキング。
ここではお得意のラグ・タイム奏法を。
歌なしだが、ギター・インストとして充分楽しめる曲。
パットはAOR路線に突入後も、「Larry The Logger Two-Step」や「Steamer Lane Breakdown」といったカントリー調インストナンバーを1アルバムにつき1曲取り入れ続けた。
⑤8th Avenue Shuffle(『ドゥービー・ストリート』収録)
舞台はニューヨーク。
かつて歌われた南部への憧憬に対し、本作では都会の喧騒が陽気に歌われる。
トミーの体調不良によるバンドの脱退により、
スティーリー・ダンからジェフ・バクスターとマイケル・ マクドナルドの2人が加入するに伴い、
パットの楽曲も音楽的に一層幅広いものになっていった。
本作はメンフィス・ホーンのソウル・フルな演奏や変速リズムが取り入れられ、
サウンドにおける目覚ましい変化が楽しめる。
また、パットとスカンクの異なる個性を持ったギター・プレイの対比も面白い。
ラテン風のギターリフを基調とし、 ブリッジ部分にはブルース風の豪快なリードギターが聴ける。
カリフォルニアの片田舎から、大都会ニューヨークへと、
ドゥービーズは都会的なサウンドに移る。
⑥Rio(『ドゥービー・ストリート』収録)
「8th Avenue Shuffle」と同じくラテン調の曲ではあるが、洗練度が大幅に増す。
サンバ風のパーカッションとジャジーなエレピによるイントロにベ ースが入ってくれば、グルーヴが一気に炸裂。
リオのカーニバルよろしく、解放感に満ち溢れる。
万華鏡のようなコーラス・ワークは楽曲に煌めきを与える。
「ねえ、乗ってかない?」
というワンフレーズだけ登場するマリア・マルダーが何とも粋な演出だ。
⑦Echoes Of Love(『運命の掟』収録)
パットの曲にもマイケル・ マクドナルドの個性が色濃く反映されるようになる。
パット作のこの曲も、 本来ならギター中心のアレンジといったところだろうが、
イントロも曲全体のアレンジもマイクのシンセが中心である。
キャッチーなシンセのリフがいかにもマイクらしい。
パットによるメロウなメロディーと爽やかなボーカルはマイクのサ ウンドとも相性抜群だ。
シングルとしても発売された。
⑧Livin' On The Fault Line(『運命の掟』収録)
より複雑化するリズム。
より深遠化するグルーヴ。
同アルバム収録の 「China Groove」に通じるインプロビゼーション・ナンバー。
ファンキーでジャズ色の強いプログレッシブな楽曲であり、パット、そしてドゥービーズの新境地と言える。
後半にかけて曲が盛り上がっていく様は、 静かな気迫を感じさせる。
ビブラフォンが効果的。
こうした曲もトミーやマイクには無いもので、
カントリーやメロウ路線とは別のパットの持ち味が発揮されている 。
アルバムの表題曲。
⑨Sweet Feelin'(『ミニット・バイ・ミニット』収録)
アコーステック・ギターの音色が優しく響く、 最高にメロウな一曲。
ワーナーのレーベルメイトであるニコレット・ ラーソンとパットのデュエットが美しい。
呼応するようなコーラス・ワークも甘美。
プロデューサーのテッド・テンプルマンも共作し、 パーカッションとしても曲に参加。
彼の叩き出すサウンドは曲のソフトな印象を際立たせる。
まさにSweet Feelin'な曲。
⑩If You Want A Little Love(『メロウ・アーケード』収録)
最後はパットの唯一のソロアルバムから。
1982年にドゥービーズを一旦解散させたパットは翌年ソロ作をリリースする。
トミーからマイクまでお馴染みのメンツも参加。
楽曲はカントリー調のものやポップ・ソウル風ナンバー等、ドゥービーズ・サウンドを彷彿とさせるものに交って、
ハード・ロックやディスコ風といったアレンジやヒューイ・ルイスのカバー等、ドゥービーズ時代のパットらしからぬ楽曲も見られる。
本作「If You Want A Little Love」はディスコAORな楽曲。
咲き乱れるような早口コーラスが何ともユニーク。
タワー・オブ・パワーによるホーンが彩りを添える。
タワー・オブ・パワーによるホーンが彩りを添える。
パットの新たな一面が垣間見える楽曲となっている。
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以上パットの魅力を掘り下げてみました。
メンバーチェンジによってバンドの音楽性が大きく変化するに伴い 、自身の音楽性に柔軟に磨きをかけていったパット・シモンズ。
つまり、強引に言い方をしますと、パットの歴史= ドゥービーズの歴史でしょうか。
パトリック・シモンズこそドゥービーズの要だ。
と、冒頭で豪語しましたが、 それが過言ではないということが伝われば…、と思います。
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