5作とも無人島に持っていきたいレベルの作品なので、この日を待ちわびていました。
2014年にも冨田恵一によるリマスターで紙ジャケCDとしてリリースされたましたが、今回のアナログもこのときの音源を使用しているということです。
すべて2枚組のLPゆえ値段もそれなりにしますし、
もうリマスターCDは持っているしで今回のアナログはいいや、
とかいう邪念も少なからずありましたが、買ってしまいました。
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半年前に出た「For Beautiful Human Life」も |
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「3」のインパクトが半端ない |
ということで、この5作の中から心のベスト10を選んでみました。(収録アルバム順)
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①汗染みは淡いブルース
まずは1stから。
さわやかなエロティシズムを感じる兄の曲。
ラテン・ビートの出だしはスティーリー・ダン「Do It Again」を思わせますが、
爽快なホーンとハンドクラッピング、パーカッションっぽいユニークなコーラスが合わさることによってキリンジワールドに染まっていきます。
積乱雲と空のコントラストが眩しい夏の日に聴くと最高。
”背中に地図を描く”って一節に、汗であるにも関わらず美しい光景が目に浮かびます。
ここのメロディーがまた切ない・・・!
太宰治の短編「満願」の読後感に似たものを感じる曲です。
同じ”さわやかなエロティシズム”を感じる兄曲といえば「野良の虹」も良いです。
ちなみにYUKIも好きな曲だそう。(兄弟ラストツアーパンフに寄せられたYUKIのコメント参照)
②ニュータウン
こちらも1stの兄曲。
いつもの街の景色さえも新鮮に見えてしまうような強烈な恋を描いた曲。
おそらく、ここでの”ニュータウン”のニューとはそうした心理的なことなのではないでしょうか。
視覚的かつドラマティックにその様子が描かれた歌詞。
高揚感で溢れるサウンド。
恋の喜びによって胸が高まる様がありありと伝わってきます。
③唐変木のためのガイダンス
2ndから弟の曲。
バンジョーとフィドルが効果的なカントリー&ウエスタンソング。
「くよくよするなよ」「鋼鉄の馬」等、弟曲にはカントリーソングがわりと多いようです。
この手の弟曲は歌詞も楽観的でのんびりとしています。
心地よいヴォーカルと相まって、聴いていると和やかな気分になれます。
”大あくびにジャストミート” って歌詞、好きだなぁ。
2ヴァース目の何拍か間を置いて歌に入るところが地味にニクいです。
④さよならデイジーチェイン
弟によるシングルのカップリング曲。今回1stにボーナストラックとして収録されています。
この曲もアップテンポで、カントリー要素が強い作品です。
”今日もひとつホクロ見つけた 星座みたいに結んだら、君は笑うかな”
… このささやかな茶目っ気、好きです。
別れの曲 (シリアスな離別ではなく、帰り道での別れの歌だと思われます) ですが、明るい曲調が悲しみを感じさせず、爽やかです。
そのギャップが逆に切なくさせます。
似たような曲調の兄による「茜色したあの空は」も粋に別れが歌われていますね。
弟がキリンジとしての最後のコンサートでこの2曲を歌ったときは、思わず泣きそうになりました。
⑤癇癪と色気
兄によるシングルのカップリング曲。今回はボーナストラックとして2ndに収録されています。
タイトル通り、歌詞がなかなか際どいです。
「乳房の勾配」なんかもそうですが、兄の歌詞には際どいフレーズがたまに出てくるので、初めて聴いたときは戸惑います。
この曲のサビの歌詞にも動揺しましたね。際どい言葉がマシンガンのように出てきます。
アレンジやメロディーが洒脱で歌詞も文学的なので単にエロチックなだけではなく、品や知性が感じられます。
弟が無感情に近いくらいサラッとした歌い方をしているのも粋です。
”蠢く僕の指は花をあしらった賄賂贈る君に”
という一節は決して直接的な表現はないのですが、とてつもない官能美をもつ一節だと思います。
元は「好きさと放ってすぐに」という曲から歌詞の一部とアレンジを変えてつくられているみたいです。
こちらは初音源であるインディーズ盤にシークレットトラックとして収録されているがゆえ、デモ音源っぽさもあります。
この曲をあえてシークレットトラックとして選ぶセンスに痺れますね。
⑥風を撃て
弟による1st収録曲。
初音源であるインディーズ盤のオープニング曲でもあるのですが、初っ端からそのクオリティの高さに驚かされます。
旋風が立つようなコーラスから始まるイントロ。
颯爽とした突き抜けるようなサウンド。
歌詞は抽象的で難解ですが、イマジネーションが刺激されます。
まるで目の前に壮大なパノラマが広がるよう。
⑦ムラサキ☆サンセット
兄によるシングル曲。4thアルバム「Fine」のオープニング曲でもあります。
間奏の兄と弟によるギターソロの掛け合いが爽快かつ豪快です。
キリンジと引き合いに出される洋楽ミュージシャンといえばスティーリー・ダンが有名ですが、 ダンと共に活躍したドゥービー・ブラザーズやイーグルスのエッセンスも多くの曲で感じられます。
ムラサキ☆サンセットはダンから引っこ抜かれたジェフ・バクスターが加入した後からマイケル・マクドナルド的AOR色が強くなる前までのドゥービー・サウンドを彷彿させます。
豪快なロックとカントリー要素を含みつつ、いなたさとと洗練さとが拮抗している時期です。
イーグルスの影響といえば弟曲の「Lullaby」が有名ですね。「アルカディア」なんかも,っぽいです。
70年代の所謂ウエストコーストサウンドの影響が色濃く出ているように思います。
弟がイーグルス、兄がドゥービーズ、冨田ラボがダンのイメージでしょうか。あえて当てはめるなら。
キリンジの5作品がかつてウエストコーストロックを多く輩出したワーナーからリリースされたことにも少なからず関連していように思えてきます。
⑧冬のオルカ
インディーズ盤の2ndシングルである弟曲。1stアルバムにも収録されています。
スピード感あふれる爽快なロック。
兄とのコーラスの掛け合いも勢いがあり、心地よいドライブ感が増します。
オルカとはシャチのことですが、歌詞に出てくる”セダン”に見立てているのではないかと勝手に思ってます。
色合いといい、ソリッドなフォルムといい、似ているからです。
オルカの勢いよく泳ぐ姿とセダンの颯爽と駆け抜けていく様がシンクロします。
この曲もウエストコーストロックっぽいです。
”スタンピート”っていうドゥービー・ブラザーズの曲もありますしね。
⑨牡牛座ラプソディ
曲は共作、作詞は兄による、2nd収録のシングル曲。
弟曲の「双子座グラフィティ」と対になってるのが素敵です。
ちなみに兄は6月生まれの双子座、弟は5月生まれの牡牛座だそう。
ですが、お互いの星座を意識してつくったのではないようです。
「双子座グラフィティ」はエヴァーグリーンなラブソングであるのに対し、「牡牛座ラプソディ」は変化球的なユーモアある曲。
意味のないような歌詞ですが、遊び心ありつつ知的で鯔背な味わいを感じさせます。
楽曲自体も一癖あって、やみつきになる良さのある曲です。 シングルにするにはなかなか挑戦的な試みだったのではないでしょうか。
⑩代官山エレジー
最後は「omnibus」から。兄が藤井隆に提供した曲です。
”じゃんけんしたの覚えてる?勝ったら未来あげるって”…この一節の斬新さ、インパクトたるや。
ここをサビでなく2番冒頭にもってくるところにも脱帽。
"代官山""じゃんけん"という相容れない言葉ををひとつの歌詞にするセンス。
洒落た大人の街である代官山が舞台であるのに、じゃんけんで未来を決めてしまうような無邪気な恋愛を描いたギャップ。
洒落ていてどこか無邪気な、まさに"くすぐったい恋"ですね。
・・・って書き終わって気づいたんですが、この曲は松本隆 作詞でした。
少し強気な女性の描き方が、松本隆っぽいです。
メロディーもアレンジも代官山のイメージぴったりで、極めて都会的。
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以上初期キリンジ心のベスト10でした。
本当に全てが名曲なので10曲に絞るのにかなり悩みました。
今回のアナログには未収録ですが、
「水とテクノクラート」や「休日ダイヤ」なんかもこの頃のキリンジで好きな曲です。
キリンジ心のベスト10~兄弟時代後期編~:http://srysig.blogspot.jp/2017/03/10.html
クレイジー・サマー~夏に聴きたいキリンジの10曲~:http://srysig.blogspot.jp/2017/08/10.html
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